konnbannha
ってそもそもこのブログの存在を殆ど告知してないのでアレなんですが、
ま、気にせずいきましょう。
今回の小説は、恋愛シリーズ外伝に出てくる人物が主人公です。
外伝の外伝?
うーん。
なんか・・・・・・
めんどくさいのでもう本編いきましょう!!
続きからどうぞー。
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・・・春の夜は、妙な拾い物をするものだ。
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茶髪男と、受験生 ~the girl meets...?~
春、桜も満開を過ぎてやけに生温い夜。
いよいよ今年は受験だというのに、いまいち実感はわかない。
けれど周りの切迫感に急かされてか、最近、耳のすぐ横でチクタクチクタク、随分うるさい時計が背中を押すような、そんな奇妙にリアルな焦りだけは感じている。
家計が苦しいのは承知しているから、出来ることなら塾にも家庭教師にもかかりたくない--けど、やっぱり一人の勉強には限界がある気もする。
「………」
ばんっ、とその少女はここ1時間程取り組んでいた問題集を勢いよく閉じた。
学校ではその性格の潔さと男勝りのゆえにアネゴと呼ばれている。
--根をつめすぎるのも能率が上がらない原因だ。やめやめ。
あっさりと物理の難問を見限り、ちょうどよく階下から聞こえてきた、母が自分を呼ぶ声にかこつけて、アネゴはたんたんたん、と階段を半ば駆け降りた。
「何?」
「あんた、勉強のきりがよかったらさ、コレ、父さんに届けてやって」
「お弁当....ってことは、まだ印刷所?」
「そうよ、また締切日の近いのが立て込んでて。うちのは機械も旧式だし、ねぇ」
「母さんも大変ね」
「あたしは手伝いだしさ、たかが知れてるわよ。じゃ、頼んだよ」
「はいはーい」
父の印刷所までは往復15分といったところ、気分転換にはちょうどよい。
ぐずる弟を寝かしつけている様子の母に一言声をかけて、アネゴは夜の空気の中に足を踏み出した。
かかとをたんたんたん、と靴の中に押し込んで、ゆっくりと歩き出す。
それにしても今日は妙に蒸し暑い。
明日は雨が降るかもしれない、ああ面倒臭い。
途中のコンビニで帰りにアイスでも買おうかな。今日はなんか、アイスを食べてもいい気温だから。
アイスを食べてもいい気温ってなんだ、変なの。自分で言ったのに。
あ、コンビニの前の桜も満開。夜桜。
いいねぇ、いっぱいやろうかって角屋のおじさんならいうだろうなぁ、宴会好きだから。お酒は弱いけど。
この様子だと今年の花見の会は、そろそろかな。いつもより早めにやんないと桜が散っちゃう。
明日の雨で散っちゃうかも、悲しむだろうな、おじさん。
まあ今年は受験生だし、遠慮しよっと。潰れた商店街の皆様を介抱するのは大変だし………あー、酔っ払い発見…。
面倒臭いことになるかもしれないけど、とりあえず首を突っ込んでしまうのが、悲しい長女の性。
しっかり者のお姉さんと、近所の評判をとって十数年。
「あの、」
いくら春と言ったって、夜、酔い潰れてコンビニのごみ箱に頭を突っ込むようにしたまま動かないその人は、どう考えてもやばかった。
そのまま息をお引き取りになられてはコンビニも困るだろうし、吐いたまま動けないならば誰かが助けてあげる必要があるし。
「あのー、」
アネゴはさっきより少し大きめに声をかける。
………動かない。やばいかな。
とはいえ油断は大敵。
相手は(おそらく)酔っ払い。
いつ抱きつかれたりしてもいいように、心構えだけは怠らずに…。
元・剣道部主将は酔っ払い男の肩を叩いた。
「こんなとこで寝てると、風邪ひきますよ」
「なんて常識的な忠告だばっ…!」
「うあぁっ」
酔っ払いは、頭を起こしかけた瞬間に、ごみ箱の枠に勢いよく頭をぶつけてその場にうずくまる。
これには割と多くの酔っ払いを見てきたアネゴも思わず飛びずさって驚いた。
「だいじょうぶ……ですか」
無言のまま頭の上で手を振ってみせる男。
どう見ても大丈夫じゃない。
少しツンツンした茶髪も、心なしか、しおれて見えた。
「飲みすぎたんですか?」
「武士は酔わねど酔った振り」
「酔ってるんで…」
アネゴがいいかけたとき、男はさっと手で言葉を遮り、這うようにして建物の隅によると、押し迫る酔いとの戦いを再び開始した。
しばらく様子を見ていたが、アネゴは意を決して、つんつん、と男の背中をつついてみる。
……動かない。
「って、潰れてるじゃん?!」
どうしよう。父さんに届け物をしてる間に、死んでたりしないだろうか。
「…しゃあないか。」
* * * * * * * *
「……で、あんたそのお人拾ってきたん?」
「まあ、そんな感じで」
「親切もたいがいにせんと、あんたもいちおう年頃の娘なんやから」
「そう、いちおうねー」
そんなこと言ってるが、この世話焼きな性分は確実に母から受け継がれたものである。
それが証拠にせっせと男を介抱してやる母。
「水、汲んできたよ」
「はいありがとう、さ、飲みなさいお水」
男はかたじけない、と時代がかった拝み方をしてコップを受け取った。
悪い人ではなさそうなのだが、春に出没しそうな「おかしな人」というカテゴリーに含まれかねない人ではある。
あれ。そっちの方が危ない気も……。
さっき潔く吐いたのが良かったのか、男の顔色もこころなしか良くなっている、気がする。
「……ああ、ウマい水だ!!この水はもしや、1mlでゼロが3つつく値で売られているという幻の……」
「水道水ね。普通の」
……なんてことだ。この人きっと、酔っ払ってなくても素でテンション高い人だ。
何だかいちいち仕草がうそくさい。というか、大げさすぎる。
厄介な人を助けてしまったらしい、と少し後悔気味のアネゴとは対照的に、どうやら面白がっている様子の母は、ついでに、とばかりに始めた洗濯もの畳みの手を休めて、男に尋ねた。
「飲み屋街からは少し離れてるやろうに、あんなところで何してたんよ」
「そうよ、それかなりギモン」
と、アネゴも口を添える。対して、あくまでも軽やかに男は答える。
「我輩がいかにしてあの場所に辿り着きしか、ということだなっ!?」
「まあ、……はい」
「今日は友との飲み会で、実に楽しく飲んでいたのだ」
えっへんと胸を張って語り始める男。
「我輩はこれでも酒に強いほうではあるのだが」
二人の「ほんとかよ」という視線を受けても、男はそれを気にもせずに話を続ける。
「それで、勝負をすることになったのだ」
「飲み比べで?」
「そうだともっ! 漢たるもの、挑まれた勝負は受けて立たねばなるまい!挑んだのは我輩だがなっ!」
……矛盾している。
「勝ったんですか?」
「勝負の行方は、記憶にないなっ!」
「負けたんですね」
「そんなものは夢だ!」
沈黙。
母は、あ、忘れてたわ、と言って、父用の二日酔い薬を差し出した。
「……」
「…………」
「む、ウマイ水のお礼に、華麗なる舞を見せて進ぜよう!!」
「吐かないでね」
「ご安心めされっ」
酔いどれ男は、たたん、と意外にも軽やかな動きで縁側から庭に降り立った。
もっとも、足元が父親の突っかけなので、格好よさは皆無ではあったが。
しかし…ゆらりふらりと揺れながら、男いわく舞は…どうみても酔拳。
舞うことしばし。動きに不思議と隙はない。
「以上っ!」
ぱちぱちぱち、と鳴らしたアネゴの拍手に応えて、茶髪男は深々と、芝居がかった仕草でお辞儀をした。
「酔いは醒めました?」
「おう、全快っ!」
「ところで……」
「うむ?」
「いっしょに飲んでたお友達は?」
「ん? それは俺の悪友連中のことかっ!? それとも俺の親友ナンバーワンッー! のことかっ!?」
「どちらでもいいんですけど…迎えに来てくれるような人はいないんですか?」
「何をっ?」
「いや、あなたを」
「なになに、男一匹! いかに酔っていたとしても迎えなど無用!」
「帰り道にまた吐いて倒れても、多分誰も助けてくれませんよ」
「いやいや、ほれ、この通り全快っ!!」
男は鋭く息を吸い込み、腰を落として腕を構えると、短い空手の形をやってみせた。
先ほどの動きなど比べ物にならないような、筋肉の撓る音、動きを止めた瞬間の音がはっきりと聞こえるくらいに正確な動き。
なんとなく見た目は軽いというか、いやむしろかっこいいんだけど。
空手をやっているとは、意外な感じだ。
茶髪だし。行動はかなりアブナい感じだけど、それでも決まっている辺り、実はかなり二枚目? ………ん? 空手?
「あーっ!!あ、ぁあ!!」
「ぬっ!?どうしたっ!?」
「思い出した!!痴話喧嘩カップル!!」
「は?」
「…の、フラれた空手下駄茶髪男」
「…すごい形容の仕方だな」
呆気にとられたのか、初めて男が普通の顔を見せた。
初対面の高校生から、指をさされて大声で、「フラれた空手下駄茶髪男」だなんて、確かに笑えまい。
「……あなたを見たことがあるの。大学でっ」
「君、高校生だよね?」
「いえーす」
「……オープンキャンパス?」
「オープンキャンパス、そうそう」
「今すぐ記憶を抹消しなさい」
「えーと…、ごめんなさい」
男は盛大に顔をしかめた。
そしてその顔のまま、もう一杯の水を所望してもいいだろうか--と言った。
「あ、もちろん」
急いで水を汲み、男のもとへ戻る。
「どうぞ」
「ありがたい」
ぐいぐい、とあっという間に男が水を飲み干すのを見ながら、アネゴはふと思いついたことを口に出してみた。
「ねぇねぇ」
「何かね?」
「唐突ですが、大学では成績は良いほうでしょうかっ?」
「この我輩が成績が悪いはず無かろう!」
「得意分野は?」
「物理工学さっ!」
「あ、ぴったり」
「何がかなっ?」
「あの、おりいってお願いごとが」
「うむ。言ってみるがよい! 叶えられる願い事は率先して叶えて進ぜよう!」
「ええと、家庭教師を」
「家庭教師となっ」
「えぇ、はい」
空中に数字を書いてみせる。
「今日のお礼に、一ヶ月--このくらいで」
「さすがにその額は生活的にきびし…」
「先生、よろしくお願いしまーすっ」
アネゴはにっかり、笑ってみせた。
男はガクリと肩を落とす。が、この状況では引き受けざるを得なかった。武士に二言はないのだから。
そして、ちょうど洗濯ものを畳み終わった母は、あら、ありがとうございます--とおっとり笑い、さらに力なく頷いた男に、ざっくりとこう言ってのけた。
--あら先生、しゃべらなけりゃ男前ね。
夜の何処かで、鳥が間抜けな声で鳴いた。
fin.
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